流石に、これはまずいと思った丙弁護士は、ボス弁にその理由を聞いてみた。すると、ボス弁は、「丙君は、打ち合わせの時に、何かの折にニヤニヤ笑っているみたいなんだ。それが依頼者にとって、馬鹿にされているようで不快らしいんだ。」と言われてしまった。確かに、丙弁護士にとっては、すべての事件が、今まで、見たことも聞いたこともない話のため、笑っているつもりはないが、その都度、感心してみたり、また、依頼者の話し方があまりにもおもしろいので、変な人がいるなと思ったり、事件の内容が変わっているので驚いたりしていたことはあった。自分としては、一々反応しているつもりはなかったが、どうも態度に出ていたらしい。丙弁護士としては、これから気をつけますと、ボス弁には謝ったが、さて、どうすればそれが直るのかが分からなかった。今度は、鏡を覗いて、にらめっこをしたり、落語を聞いても笑わないようにしたりなど、自分の表情を消す努力を始めてしまった。色々と試すうちに、顔つきは能面のようになり、また、話し方も小声で、「あぁ、うぅ」と相づちを打つ程度となってしまった。丙弁護士の見た目が、育ちの良い明るいタイプが、一転して、何を考えているか分からない暗いタイプに変わってしまった。丙弁護士としては、真面目に取り組んでいるつもりであったが、周りからは、丙弁護士は病んでいるのではないかという評価を受けるようになってしまった。ここで、丙弁護士はまずいと思って、努めて明るくしようと思ったが、周りからは、変なときに妙に明るいと思われ、ますます土壺にはまってしまった。丙弁護士は、周りに合わせようとすると、ますます空回りしてしまい、事務所の中で、丙弁護士を完全に敬遠するようになってしまった。
 久しぶりに、丙弁護士は実家に帰ったところ、あまりの変貌ぶりに、両親が心配して、即刻入院させてしまった。 (完)