戊弁護士は、いわゆるソク独で、登録とともに事務所を開設した。昨今の就職難で、色々と就職活動をしたが、採用してくれるところがなかった。若干の蓄えがあったので、レンタルオフィスを事務所にして、開業した。最初の一ヶ月はほとんど仕事がなく、二ヶ月目に入っても、数万円の売上げしかなかった。そろそろ、蓄えも少なくなりかけていた。
 ある日、電話が鳴って、受話器を取ると、「戊先生ですか!!」とものすごく明るい調子で話しかけられた。
「はい。」と返事をすると、「私、DファイナンスのFと申しますが、当社は、弁護士専門の貸金業で、先生に融資をしたいと思いまして、連絡しました。」と切り出した。「事業資金でお困り出ないでしょうか。」と言われ、思わず、「はい。」と返事をしてしまった。「それでは、是非ご相談させてください。」と、またまた明るく言われ、打ち合わせの日取りを決めてしまった。何で、自分のところに電話が来たのか、ふと、疑問に思ったが、友人が気を利かせたのかな、などと勝手に納得してしまった。
 翌日、Fが事務所に来て、「いくらぐらいお入り用ですか。」と言われ、戊は、半年分の事務所経費と生活費を思い浮かべ、「300万円くらい」と言った。「そんなもんでいいのですか、」と言われたので、「500万円。」と言ってしまった。すると、「では、500万円で、契約しましょう。」とすかさず承諾してきた。戊弁護士は、あまりにも、簡単に承諾するので、「私は、成り立ての弁護士ですけど、いいのですか。」と問いかけると、「弁護士の信用は絶大ですから、特に信用調査は要らないですよ。特に、すぐ独立される方は優秀な方が多いので、皆さん、きちんと、返済してくれますよ。」と、ニッコリ笑った。「金利は若干高めの8.5%ですが、もし、返済がきつくなるようでしたら、ご相談ください。」と優しく言われ、戊弁護士は、すっかり信用してしまった。そして、その場で、現金500万円を受領した。Fは、帰り際に、「戊先生、レンタルオフィスでは、格好がつかないですから、どこか、事務所をお借りになったらどうですか。」と言って帰って行った。(続)