戊弁護士は、帰り際のFの言葉が気になり、確かにそうだなと思って、10坪くらいの事務所を借りることにし、内装も多少良いものを入れたり、パソコンやプリンターも少し良いものを買ってしまった。色々と、お金を使って、結局手元には、100万円しか残らなかった。
 三ヶ月目になっても、売上げに変化はなく、四ヶ月目には、借入金もなくなりつつあり、五ヶ月目には、返済が厳しくなった。そこで、恥ずかしい思いで、Fに電話をした。すると、Fは、前と同じように明るく、「では、会社に来ていただけますか。ご相談に乗りますよ。」と言ってくれた。戊弁護士は、明るい声に安心して、Dファイナンスを訪れた。Fは、「戊先生、失礼なことを伺うようですけど、月々の売上げはどのくらいですか。」と聞いてきた。戊弁護士は正直に答えた。「それでは、返済は無理ですね。困りましたね。」と暫し沈黙が続いたが、「戊先生、うちの仕事を手伝ってくれませんか。」と言い出した。戊弁護士としては、仕事があれば、返済は出来ると思い、「はい。」と言ってしまった。「では、何かありましたら、連絡しますので。」と言われ、特に、返済条件の変更をしないで、終わった。
 翌日から、Fさんの紹介で電話をしました、というお客さんが連絡をしてきた。大半が、債務整理であった。弁護士費用は、Fさんに何円と言われてきました、という人がほとんどで、通常の料金の半額以下であったが、文句をFに言って、仕事が来なくなることが心配で、敢えて、連絡はしなかった。多いときは、一日、3件も連絡が来て、その処理に日々追われだした。何で債務整理なんだろうと思ったが、大量に来る事件処理に追われ、落ち着いて考える暇がなかった。
 ある日、Fが事務所を訪れた。「戊先生、仕事の方はどうですか。今月の返済は大丈夫ですか。」と明るく言ってきた。「ええ、なんとかなりそうです。ありがとうございます。」と答えた。「それでは、今月分をいただいて帰ります。」と言って、現金を持って帰った。返済金と固定経費を払うと、戊弁護士の手元には、数万円しか残らなかった。その後、多い月と少ない月とはあるが、コンスタントに債務整理の事件は来た。月末の支払いが終わると、数万円しか残らない生活が続き、戊弁護士は、こんなことをやっていては、どうにもならないと思うようになった。そこで、Fに対し、弁護士費用の値上げの話をしてみようと思った。(続)