辛弁護士は、2回連続して、失敗したことを大いに反省し、次からはきちんと聞こうと決意した。また、しばらくして、離婚事件が来た。50代後半の女性で、夫の定年が近いので、離婚したいとのことであった。不平不満は山のようにあるみたいで、ノートにまとめて貰うことにした。辛弁護士は、今度はきちんと聞こうと思って、意を決して質問をしてみた。「ご主人と最後にセックスをしたのはいつですか。」依頼者は、「まあ、そんなことを答えなければいけないのですか。」と少し恥ずかしそうに体をくねらせた。辛弁護士は、ますます真面目な顔をして、「これは非常に重要なことですので、本当のことを言ってください。このことによって、離婚できるか否かが決まりますので、答えてください。」と強く問いかけた。依頼者は、「もうそんなことは忘れてしまいました。こんなおばさん誰も相手しないわよ。」と笑って答えた。辛弁護士は、聞いている自分が恥ずかしくなっていたが、さらに、「本当ですか。先週とか、昨日とか、していませんか。」と追求してしまった。「先生、おかしくないですか、そんなことがあれば、相談に来ませんよ。」と半分怒った様子で答えた。辛弁護士もそうだなと思ったが、最後に、「毎日セックスしないといけないと思っていますか。」と聞いてしまった。依頼者が、目を丸くして、激昂して、「先生、変態じゃないんですか。もう頼みません。」と言って、帰ってしまった。ボス弁にそのことを報告すると、「物事には聞き方というものがあるんだよ。」と笑われてしまった。辛弁護士はどうすれば、うまく聞き出せるんだろうと思い、色々な質問を考えてみた。セックスではなく、性交渉とか、交合とか、別の言葉を思い浮かべてみたり、どのタイミングで聞くか、など。顔つきも、ニヤニヤしながら聞くか、真面目な顔で聞くか、など。ただ、どうしても、聞くのが恥ずかしいという気持ちが変わらなかった。
 ある日、20代後半の女性の離婚事件の依頼者が来た。(続)