Y弁護士は、どこというわけではないが、周囲の人と少し感覚がずれていた。修習中も、積極的に懇親会や飲み会に参加するのだが、気がつくと周りに人がいなかった。Y弁護士としては、法律問題や社会問題など、皆と議論をしたかったのだが、人の輪の中に入っても、気がつくと一人でしゃべっていることが多かった。
 司法修習終了後、知人の紹介で、ある事務所に入所したが、ボス弁はどちらかというと無口なタイプで、仕事以外で、Y弁護士の相手はしてくれなかった。Y弁護士は、同期の集まりや若手弁護士の会合など、誘われるものはすべて出席し、皆と議論をしようとしたが、誰も相手をしてくれなかった。自分としては、色々と調べて、正しい意見を述べているつもりであったが、誰も受け入れてくれなかった。Y弁護士は、その原因がどこにあるかは分からなかったが、議論ができる人を探して、弁護士会以外の会合にも顔を出してみたが、やはり、結論は同じであった。
 その内、故意か過失かは分からないが、誘いの連絡が来なくなった。最初は誘いの連絡が来ないことに気がつかなかったが、ある時、同期の弁護士から、「Y弁護士この間の集まりは何故来なかったの?」と聞かれ、自分が呼ばれていなかったことに気がついた。びっくりして、色々と確認をとったところ、殆どの会合からの連絡が来なくなっていた。いずれも、「何かの手違いでは?」という回答だったが、中には、「あなたは外れました。」という拒否ともいえる回答もあった。
 Y弁護士は、自分はどこが悪いのか、悩んでしまった。色々な会合での意見は、多少過激なこともあったが、同じようなことを発言している人もいたし、挨拶を忘れたこともないし、何か失礼なこともしていないし、と、今までの自分の行状を点検してみたが、人に嫌われることはないように思えた。人とのつきあい方みたいな本を読んでみたり、インターネットでの人生相談を検索したりなど、原因を探ってみたが、結論は出なかった。思いあまって、司法研修所の教官だったH弁護士に、相談してみた。Y弁護士が、「H先生、私は、どうも周りの人に嫌われているみたいなんですが、どこが悪いんでしょうか。」と問いかけると、H弁護士は、「そんなことがあるの?」と怪訝な顔をした。そこで、Y弁護士は、色々な会合からの誘いが来ないことや自分の行状を、半分涙声で、縷々説明した。Y弁護士の長い話の後に、H弁護士は、「その場に、私はいなかったので、分からないけど、どこかずれているんだろうな。」と、ぼそりと言った。(続)