V弁護士は、弁護士数9名の中規模事務所に勤務する登録4年目の若手弁護士であった。性格はまじめで大人しく、弁護士としての知識・経験等に特に優れたところはないものの、まずは同年代の弁護士の平均的な水準には達していた。ただ、V弁護士には、性格的に気の小さなところがあり、人前で話すときなどには極端にあがってしまい、何も喋れなくなってしまうようなところがあった。
  あるとき、V弁護士に、継続的取引に関する契約書の作成をテーマにした受講者100名程度のセミナーの講師をしてほしいという依頼があった。V弁護士は、自分が極端なあがり症で、人前で話をすることが苦手であるということを強く自覚しており、また、それまでにそのような大人数の前で話をした経験がなかったことから、気持ちの上で非常な尻込みをした。しかし、事務所のボスから、「弁護士たる者が人前でまともに話せないとは何ごとか。良い機会だから、君のそのあがり症も徐々に克服していったらどうだ。」と激励され、また、自分でもいずれ何とかしてあがり症を克服したいと常々考えていたことから、思い切ってその話を受けることにした。(続)