U弁護士は、登録6年目の若手弁護士で、昨夏に丸4年間勤務した事務所から独立して新たに事務所を構え、今秋で2年目を迎えた。事務所は、弁護士が1人(U弁護士)だけのいわゆる一人事務所であり、妻に事務員をしてもらっていた。
  U弁護士が昨夏まで勤務していた事務所は、その専門分野においてはある程度名前を知られた事務所であり、また、ボスが依頼者の心を掴むのが非常にうまかったこともあって、経営的にはそれなりに安定した良い事務所であった。いずれボスの息子が弁護士となって、ボスの後を継ぐというような話などもあり、U弁護士としては、ボスの下で、ずっとその事務所に勤務するということでも良いかなとも考えいた。しかし、その事務所は専門分野を売りにしている事務所なので、扱う事件に偏りがあることは避けられないところ、U弁護士としては、若いうちにある程度幅広く事件を扱って経験を積みたいと考えていたこと、将来にそなえて、事務所の経営等についても一通りのことは知っておきたいと考えたこと、弁護士の増員傾向が今後も続くとすれば、後になればなるほど独立開業の環境は悪化すると思われること、依頼者の心を掴むボスの話術はボス固有のテクニックと思われ、自分がそれを身につけられるとは思えなかったこと、等の事情から、妻とも相談の上、思い切って、独立開業をすることにした。(続)