しかし、弁護士も自営業者である以上、経営がうまくいかなければ食べていけないのは当然の話なので、U弁護士は、現在、将来に向けてさまざまな手を打つべく、営業活動の強化・広告宣伝の展開等を前向きに検討していた。ところが、2ヶ月も一本も電話のない日々が続き、睡眠が極端に浅くなり、心配で眠れない日々が続きだした。事務員が奥さんのため、事務所でも家でも、夫婦喧嘩となりだした。奥さんの不満は、独立は早かったのではないかの一点張りで、U弁護士は、自分の志を理解してくれない奥さんにイライラしていた。ある日、奥さんが、「どうせ仕事がないのだから、私は事務所に出ない。」と言って、事務所に出てこなくなった。U弁護士は、事務所電話を携帯電話に転送するなどして、何とか、仕事をこなそうとしたが、事務作業を含めてすべてをこなすことは非常に負担となった。頼まれる仕事も、相変わらず、採算性が低く、自転車操業の日々が続いた。家に帰っても、奥さんは口を聞いてくれず、疲労困憊の中、志だけで日々を過ごしていた。
  ある日、先輩に連れて行かれたキャバクラで、ある娘に妙に好かれてしまった。その娘は、「弁護士は素敵。弁護士は格好いい。」を連発し、U弁護士に、やたら抱きついてきた。U弁護士も、何となく良い気分になってしまった。家に帰っても、口を聞かない奥さんしかいないため、ついつい、その日、その娘と外泊してしまった。翌日から、U弁護士は、その娘に入れあげてしまい、家にも帰らない日々が続きだした。仕事の状況は全く変わらなかったが、現実を見つめることに疲れてしまったので、楽しいことに現実逃避してしまった。たまたま、家に帰ったら、奥さんはいなかった。そこには、家賃だの水道光熱費だの山のような請求書が置いてあった。(完)