思いつくままに、検索と絞りを繰り返したが、なかなか、数は減らなかった。他の事務所のホームページを覗いてみたが、そのまま使える内容のものはなかった。
 ボス弁からは、「早くしてよ。」と言われ、「全部がうまく整理できないのです。」と言い訳をすると、「代表的なものでいいんだよ。」と言われた。ここで、また、代表的なものとは何かが分からなかった。Z弁護士としては、千差万別とも言える離婚事件に代表的なものがあるとは到底思えなかったのである。そこで、同期の弁護士に相談をしてみると、「不貞でいいんじゃないの。」と軽く返されてしまった。そこで、不貞で絞りをかけて、それでも、相当数ある判例を、テキストデータに落とし、結論と判旨とをまとめたデータベースを作り上げた。漸く仕上がった資料をボス弁に見せると、「こんな大量なものを2時間の講演で話せるわけないでしょう。しかも、不貞しかないし。他のは。」と怒られてしまった。Z弁護士としては、ますます何を作って良いか、が分からなくなってしまったので、「何を作れば良いのでしょうか。」と聞いてみた。「そんなことは常識でしょう。どの事件だといくらぐらいが相場みたいなものでしょう。」とかなりきつく言われてしまった。そこで、金額で絞りをかけて、いくつかの山を作ってみたが、金額と離婚事件の内容とが、うまくつながらず、相場がいくらかが出せなかった。いくつかの共通語を探しているうちに、何となく傾向らしいものが出てきたので、それをレポートにしたところ、「こんな特殊な分類は誰が考えたの?」と怒鳴られてしまった。「自分です。」と言うと、「あの小冊子を前提にしてよ。君の極端少数説では、私が笑いものだよ。」と突き返されてしまった。講演の日がかなり迫っており、ボス弁も相当イライラしていた。
 結局、元に戻って、小冊子を基準とした山に従って、大体の傾向をまとめ、ボス弁に見せた。「この数字は、私の感覚とずれているな。元の資料はある。」と言われ、膨大な判例のコピーの山を自席から運んでくると、「代表的なものを取り出して。」と怒られた。「どれが代表的か分からないのですが。」と、Z弁護士は小さな声で答えた。ボス弁は、一瞬、目が点になり、「君、弁護士だよね。」と言った。Z弁護士は、「はい。」と言えなかった。 (完)