ボスが、不機嫌そうに「いやぁ、いきなり私に対しても、えらい剣幕で、この事務所では、何であんな弁護士を雇っているんだ、所長として責任を感じないのかとか、一方的に言って切られてしまってね。うちは、個人事件は一応自由ということになっているが、こういうことは極力ないようにして欲しい。」と言うので、R弁護士が謝ると、ボスは続けて「まぁ、私も弁護士だから、いろんな相手方がいることは分かっているので、この件はもういい。ただ、良い機会だから言っておくが、君は債務整理でヤミ金事件もやっているようだが、最近、事務員がヤミ金業者からの電話を怖がっているようだ。これも個人事件だから自由だと言ってしまえばそれまでだが、あまり度が過ぎると、うちのカラーに合わないという話にもなって来るから、その点、よく考えるように。」と言われてしまった。
 元々、ボスからは、個人事件は自由にして良いよ、と言われていたのに、ボスは、あまり、そのことを快く思っていなかったことが分かった。R弁護士は、その場はひたすら謝って退散したが、何となく、釈然としなかった。
 このことがきっかけとなって、ボスとの人間関係がだんだん悪くなっていった。R弁護士は、できるだけ、事務所に迷惑をかけないように、事件処理をしていたが、何故か、悪い方向悪い方向で、物事が動き始めてしまった。ある日、ボスが、R弁護士の事件の電話の取り次ぎをする事態も発生し、ボスから、「私は、君の事務員かな。」とまで、イヤミを言われてしまった。これ以上、悪化してはいけないと思い、R弁護士は事務所を去った。 (完)