壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #1 突然の落とし穴

 甲弁護士は、法学部の成績も法科大学院の成績も優秀で、司法試験自体も上位の成績であった。将来を嘱望され、とある有名な法律事務所に入所した。日々の業務も問題なくこなし、順風満帆という感じであった。
 ある日、甲弁護士が、事務所の所長弁護士(ボス)と依頼者との法律相談に同席していたところ、ボスから、極めて簡単な法律の質問をされた。ボスが質問をしたのは、新人の甲弁護士が、法律の素養があることを依頼者にアピールするためにした、ちょっとしたパフォーマンスであった。ところが、甲弁護士は絶句して答えられなかった。この時、甲弁護士は居眠りをしていたわけではない。しかも、甲弁護士は、ボスからそれまでにも同じように簡単な質問をされ、正確に答えていた。何故、この時だけ、答えられなかったのか、原因は不明である。甲弁護士も、当然知っている知識であり、自分自身、この時だけ答えられなかったことの理由がわからなかった。
 その場の気まずい雰囲気を、「すみません。不勉強で。」とでも、軽く流せるタイプであれば、良かったのであるが、残念ながら、甲弁護士は真っ赤になって俯いているだけであった。(続)
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 依頼者との法律相談後に、ボスから、「君でも知らないことがあるんだ。まあ、気にせずに、よく勉強しておいて。」と言われた。
 この時を境に、甲弁護士は、依頼者との法律相談に対して、異常なプレッシャーを感じるようになってしまった。まずは、必要な法的知識の習得を目指して、時間を作っては、勉強に励む一方、ボスから、法律相談の同席を求められると、ありとあらゆる質問に答えられるように想定問答集を作るなど、二度と失敗をしないように、準備に専念した。ところが、ボスの方は、また、パフォーマンスが失敗するのが嫌で、甲弁護士には、質問をしなかった。このこと自体が、甲弁護士には、自分が評価されていないと思う契機となり、さらに準備に拍車をかけることとなった。そのうち、ボスが聞いてもいないのに、準備した内容をベラベラと法律相談の席でしゃべるようになってしまった。ボスが静止しても、それがとまらなくなった。ボスは、依頼者からもクレームが出るに至り、甲弁護士は、同席を許されなくなった。ここで、甲弁護士は、自分の準備が間違っていて、そのことを咎められたと誤解し、さらに勉強に励むようになってしまった。
 その後、甲弁護士は、ボスから、仕事を頼まれても、準備に時間をくださいと言って、いつまでも、仕事に着手しないことが多くなった。ボスとしては、仕事をしない甲弁護士をいつまでも雇っていることもできず、解雇した。甲弁護士のその後は不明であるが、今でも、勉強を続けているらしい。(完)
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