壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #3 育ちの良さが仇?

 丙弁護士は、裕福な家庭に生まれ、何不自由なく育ってきた。いわゆる温室育ちであった。勉強もそこそこできたため、有名私大の法学部に入り、周りにつられて、司法試験を受けたところ、受かってしまった。いくつかの事務所を訪問したところ、中堅どころの事務所に入所することとなった。
 ある日、依頼者との打ち合わせの後に、ボス弁と先輩弁護士が、「丙君は育ちがいいから。」と話をしているのが聞こえてしまった。丙弁護士も、その話がいい意味ではないことは何となく察したが、敢えて気にもとめなかった。数日後の打ち合わせの後に、やはり、同じような話をしていることを小耳に挟んでしまった。丙弁護士は一体何だろうと思ったが、思い当たる節がなかった。自分としては、真面目に応対しているつもりであったが、何が悪いのかと、色々と考えてしまった。ここで、ボス弁なり、先輩弁護士なりに、確認すれば良かったかもしれないが、一人、悶々と悩んでしまった。鏡を覗いて、真面目そうな顔を作ってみたり、或いは、ネクタイを変えてみたり、或いは、依頼者と面談の際には、じっと目をそらさずに聞いてみたりなど、自分で考えられる限りのありとあらゆることを試してみた。
 ところが、ある日、ボス弁から、依頼者との打ち合わせに同席しなくていいと言われてしまった。(続)
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 流石に、これはまずいと思った丙弁護士は、ボス弁にその理由を聞いてみた。すると、ボス弁は、「丙君は、打ち合わせの時に、何かの折にニヤニヤ笑っているみたいなんだ。それが依頼者にとって、馬鹿にされているようで不快らしいんだ。」と言われてしまった。確かに、丙弁護士にとっては、すべての事件が、今まで、見たことも聞いたこともない話のため、笑っているつもりはないが、その都度、感心してみたり、また、依頼者の話し方があまりにもおもしろいので、変な人がいるなと思ったり、事件の内容が変わっているので驚いたりしていたことはあった。自分としては、一々反応しているつもりはなかったが、どうも態度に出ていたらしい。丙弁護士としては、これから気をつけますと、ボス弁には謝ったが、さて、どうすればそれが直るのかが分からなかった。今度は、鏡を覗いて、にらめっこをしたり、落語を聞いても笑わないようにしたりなど、自分の表情を消す努力を始めてしまった。色々と試すうちに、顔つきは能面のようになり、また、話し方も小声で、「あぁ、うぅ」と相づちを打つ程度となってしまった。丙弁護士の見た目が、育ちの良い明るいタイプが、一転して、何を考えているか分からない暗いタイプに変わってしまった。丙弁護士としては、真面目に取り組んでいるつもりであったが、周りからは、丙弁護士は病んでいるのではないかという評価を受けるようになってしまった。ここで、丙弁護士はまずいと思って、努めて明るくしようと思ったが、周りからは、変なときに妙に明るいと思われ、ますます土壺にはまってしまった。丙弁護士は、周りに合わせようとすると、ますます空回りしてしまい、事務所の中で、丙弁護士を完全に敬遠するようになってしまった。
 久しぶりに、丙弁護士は実家に帰ったところ、あまりの変貌ぶりに、両親が心配して、即刻入院させてしまった。 (完)
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