癸弁護士は、ボス弁一人兄弁一人の事務所に入所した。最初は、どの事件も、兄弁が面倒を見てくれた。準備書面を書き上げると、一字一句訂正をしてくれて、しかも、何故そのように書くかを、丁寧に教えてくれた。契約書の起案も同様であり、どうしてそのような条項を入れるかを、理論立てて、説明をしてくれた。兄弁の口癖は、「基本からよく考えるのが良いよ。」であった。事件によっては、契約とは何か、とか、意思表示とは何か、という大学の講義で教わるようなことから、説明をしてくれた。一つの起案に対して、1時間以上説明してくれることもあり、癸弁護士は、大変勉強になると思っていた。兄弁は、終始優しく教えてくれた。
そのまま、1年が過ぎ、兄弁が独立することとなった。兄弁がいなくなったために、ボス弁から直接仕事を任されることとなった。今までは、分からなければ、兄弁に聞けば良かったのだが、兄弁がいないので、ボス弁に直接聞くことになった。ある建物明渡訴訟で、分からないことがあったので、癸弁護士は、ボス弁に質問したところ、「その事件は前にやったのと同じだよ。」と言われた。記録を探してみると、確かに同じような事件をやっていることが分かった。癸弁護士は、毎度毎度教わったことは覚えているつもりであったが、法律論から文章の書き方まで多岐にわたっていたために、所々、抜けていることに気がついた。癸弁護士が、別な事件で質問をすると、また、同じように、ボス弁から、「その事件は前にやったのと同じだよ。」と言われてしまった。(続)
そのまま、1年が過ぎ、兄弁が独立することとなった。兄弁がいなくなったために、ボス弁から直接仕事を任されることとなった。今までは、分からなければ、兄弁に聞けば良かったのだが、兄弁がいないので、ボス弁に直接聞くことになった。ある建物明渡訴訟で、分からないことがあったので、癸弁護士は、ボス弁に質問したところ、「その事件は前にやったのと同じだよ。」と言われた。記録を探してみると、確かに同じような事件をやっていることが分かった。癸弁護士は、毎度毎度教わったことは覚えているつもりであったが、法律論から文章の書き方まで多岐にわたっていたために、所々、抜けていることに気がついた。癸弁護士が、別な事件で質問をすると、また、同じように、ボス弁から、「その事件は前にやったのと同じだよ。」と言われてしまった。(続)