壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #14 塀の上

 W弁護士は、「清濁併せ呑む」という言葉に共感を覚え、塀の上を歩いて塀の内側に落ちないというギリギリの法的処理に興味を覚えるというタイプであった。たまたま入所した事務所のボス弁も、違法か否かのギリギリの所にビジネスチャンスがあるというのが口癖の似たようなタイプであった。
 ボス弁の作る陳述書は、黒を白とは言わないが、限りなく白と表現する、すばらしい文章力で、W弁護士は感心していた。また、違法行為であるとの警告的な内容証明郵便に対し、堂々と法律論を展開し、違法行為ではないと反論する文章も格式が高く、W弁護士は惚れ惚れとしていた。W弁護士は、良い事務所に入ったなと喜んでいた。ただ、一つ気になったことは今までのイソ弁が短い期間で辞めていたことであった。W弁護士は、皆ギリギリの処理に神経をすり減らしたのだろうと、勝手に考えていた。
 あるとき、事務所に、地上げの相談があった。都心の一等地に古い木造2階建てがあり、その土地の立ち退きができれば、かなり大きなビルが建てられるとのことであった。既に、不動産業者が何社も土地所有者と交渉していたが、全く応じる気配はないとのことであった。依頼者は、ボス弁に、「何か良い方法はないでしょうか。」と聞いたところ、「家がなくなれば話は早いよね。」と笑って言った。「冗談だよ。本気にしないでね。」と付け加えた。ボス弁が、「しょうがないから、その土地を除いて、変な形のビルを建てたら。」と言うと、依頼者も「そうですね。」と言って帰って行った。(続)
    このエントリーをはてなブックマークに追加

 結局、依頼者は、コの字型のビルの建築確認を取って、工事を始めることとなった。
ある日、工事用の資材を積んだトラックがその木造の家に突っ込み、家は大破してしまった。ボス弁は、依頼を受けて、土地所有者と家の大破の示談交渉をし、ついでに、土地の売買の話を向けた。すると、土地所有者は、連日大型トラックが走って、生活環境がかなり悪化していたこともあって、相応の値段で、売却することとなった。後日、依頼者が事務所を訪問してきて、「先生のアドバイスが良かったですよ。」と報告してきた。ボス弁は、「私は、家を壊せなんて言っていないよ。まさか、わざと突っ込ませたの」と苦笑いすると、「いえいえ、まさか。」と依頼者は大笑いした。W弁護士は、何か暗い影のようなものを感じた。依頼者は、建築確認を取り直して、ビルを建てるとのことであった。
 また、あるとき、お金を騙し取られたという相談があった。その依頼者は、ある物件の買い付けで3000万円を預けていたところ、実はその物件は売りには出ていないため、そもそも買えないことが分かったとのことであった。お金を返せと言っても、相手方は交渉中と言って返さないとのことであった。W弁護士は、民事裁判を起こすのかなと思っていたら、ボス弁は、相手方とまず交渉だということで、相手方を訪問することとなった。ボス弁から、「詐欺だと言えば払うから、あと通帳を見せて貰いな、お金があったらすぐに取るんだよ。」とアドバイスを受けた。(続)
    このエントリーをはてなブックマークに追加

 そこで、W弁護士は、相手方の家に乗り込み、交渉に臨んだ。
W弁護士は、開口一番、「あなたがしたことは詐欺罪だ。今から警察に行っても良いが、今返してくれるなら、不問に付すよ。」と凄みのある声で諭してみた。相手方は困ったような顔をして黙っていたが、続けて、「あなたはお金を持っているでしょう。持っていなければおかしいよね。通帳を見せてごらん。」と迫った。相手方は四の五の言っていたが、結局、通帳を見せた。すると、何十本もの振り込みがあって、総額5000万円以上の預金があった。「ほら、ここから返せば良いんだよ。今から、一緒に行ってお金を下ろしましょう。」と言った。W弁護士は、相手方を銀行に連れて行き、3000万円を下ろさせた。W弁護士は、W弁護士名義の領収書を相手方に渡し、現金を持って事務所に戻った。
 W弁護士は、ボス弁のアドバイスが適格で、素早い解決に感心してしまった。数週間後、相手方が警察に逮捕された。容疑は、出資法違反であった。報道によると、相手方は、多数の人間から金を集めていたことが分かった。びっくりして、ボス弁にそのことを報告すると、「通帳を見たのは、君だろ。僕は知らないよ。」と言った。数日後、W弁護士に警察から連絡が入った。3000万円の領収書のことを聞きたいとのことであった。(続)
    このエントリーをはてなブックマークに追加

 びっくりして、警察に行くと、とりあえず、参考人として、事情を聞きたいとのことであった。
 W弁護士は、警察の質問を聞いているうちに、依頼者と相手方とが、出資法違反の共犯ではないか、と疑っていることが見えてきた。これは困ったなと思ったが、何も知らないふりを通した。数日後、依頼者が逮捕されてしまった。すると、また、警察から連絡があって、事情を聞きたいとのことであった。警察に行くと、黙秘権の告知をされた。W弁護士が、「私は被疑者ですか。」と聞くと、「あなたの依頼者が3000万円をあなたが持っていると言っているんだよ。」と言い出した。「私は、お金をボス弁に渡しました。」と言うと、「ボス弁も知らないと言っているんだ。」と言われてしまった。W弁護士は、まさか、ボス弁がそんなことを言うはずはないと思って、「私は持っていない」と繰り返し弁明した。
 その日は、家に帰ることができたが、翌日、家を警察に捜索されることとなり、色々なものを押収された。ボス弁に警察のことを報告すると、「私は何も聞かれていないよ。警察のハッタリだろう。」と笑って答えた。W弁護士の取り調べは数回に及び、W弁護士はほとほと疲れてしまった。結局、相手方と依頼者との共犯関係の立証が困難ということで、相手方のみ起訴されて、依頼者は釈放された。その関係で、W弁護士も解放された。翌日、依頼者が事務所に来た。W弁護士は、依頼者に対し、半分怒りながら、「何故、お金を貰っていないと言ったんですか。」と問い詰めた。依頼者は、この人何を言っているんだろうと訝しげな目でW弁護士を見た。ボス弁が、「まあまあ」と言いながら、机の後ろの金庫から、3000万円を出して、依頼者に渡した。それを見て、W弁護士は、何も言えなくなってしまった。何故、どうして、という疑問が次から次へと溢れ出てきたが、多分、何を聞いても、ボス弁は答えてくれないだろうと思い、報酬を手にしているボス弁を横目で見ながら、部屋を出た。(完)
    このエントリーをはてなブックマークに追加

このページのトップヘ