壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #16 独立開業の失敗?

  U弁護士は、登録6年目の若手弁護士で、昨夏に丸4年間勤務した事務所から独立して新たに事務所を構え、今秋で2年目を迎えた。事務所は、弁護士が1人(U弁護士)だけのいわゆる一人事務所であり、妻に事務員をしてもらっていた。
  U弁護士が昨夏まで勤務していた事務所は、その専門分野においてはある程度名前を知られた事務所であり、また、ボスが依頼者の心を掴むのが非常にうまかったこともあって、経営的にはそれなりに安定した良い事務所であった。いずれボスの息子が弁護士となって、ボスの後を継ぐというような話などもあり、U弁護士としては、ボスの下で、ずっとその事務所に勤務するということでも良いかなとも考えいた。しかし、その事務所は専門分野を売りにしている事務所なので、扱う事件に偏りがあることは避けられないところ、U弁護士としては、若いうちにある程度幅広く事件を扱って経験を積みたいと考えていたこと、将来にそなえて、事務所の経営等についても一通りのことは知っておきたいと考えたこと、弁護士の増員傾向が今後も続くとすれば、後になればなるほど独立開業の環境は悪化すると思われること、依頼者の心を掴むボスの話術はボス固有のテクニックと思われ、自分がそれを身につけられるとは思えなかったこと、等の事情から、妻とも相談の上、思い切って、独立開業をすることにした。(続)
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 弁護士の増員状況下で独立する以上、容易なことではうまくいかないということは、U弁護士も当然覚悟していたが、現実の状況は思った以上にシビアなものであった。
  まず、最初に直面したことは、不況を背景に、全体としての事件数自体が減ってきている上に、採算性のない事件が相当数あり、しかも、ある程度、あてにしていた法律相談も、弁護士増員の状況下でそもそも割り当て自体が少なく、かつ、受任に結びつく相談自体があまりなかった。
  結局、U弁護士の事務所開設一年目の収支は、経費を賄えるだけの売上は何とか上げられたものの、夫婦二人の生活費を賄うまでの収入を得るには至らず、勤務弁護士時代のなけなしの貯蓄を取り崩して生活せざるを得ないという結果となった。
  もとよりU弁護士としては、事務所開設後、最初の2~3年間は、仮に赤字が続いたとしても頑張って事務所を維持しようと考えていたことから、単年度(一年目)の収支が思わしくなかったからといって、直ちに極端に悲観的な考えを抱いたわけではなかった。ただ、このままずっと売上が伸びなかったら、夫婦二人で今後の生活をどうしたらよいだろうか、今のままでは子供を持つこともできないのではないか、という不安はひたひたと胸にせまり、心から離れることがなかった。
  もちろん、このような将来に対する生活の不安等も、独立開業にチャレンジした結果得られた貴重な経験であり、このような悩みも経験するためにこそ独立を決断したわけなので、U弁護士としては現在の状況に不満はなかった。(続)
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 しかし、弁護士も自営業者である以上、経営がうまくいかなければ食べていけないのは当然の話なので、U弁護士は、現在、将来に向けてさまざまな手を打つべく、営業活動の強化・広告宣伝の展開等を前向きに検討していた。ところが、2ヶ月も一本も電話のない日々が続き、睡眠が極端に浅くなり、心配で眠れない日々が続きだした。事務員が奥さんのため、事務所でも家でも、夫婦喧嘩となりだした。奥さんの不満は、独立は早かったのではないかの一点張りで、U弁護士は、自分の志を理解してくれない奥さんにイライラしていた。ある日、奥さんが、「どうせ仕事がないのだから、私は事務所に出ない。」と言って、事務所に出てこなくなった。U弁護士は、事務所電話を携帯電話に転送するなどして、何とか、仕事をこなそうとしたが、事務作業を含めてすべてをこなすことは非常に負担となった。頼まれる仕事も、相変わらず、採算性が低く、自転車操業の日々が続いた。家に帰っても、奥さんは口を聞いてくれず、疲労困憊の中、志だけで日々を過ごしていた。
  ある日、先輩に連れて行かれたキャバクラで、ある娘に妙に好かれてしまった。その娘は、「弁護士は素敵。弁護士は格好いい。」を連発し、U弁護士に、やたら抱きついてきた。U弁護士も、何となく良い気分になってしまった。家に帰っても、口を聞かない奥さんしかいないため、ついつい、その日、その娘と外泊してしまった。翌日から、U弁護士は、その娘に入れあげてしまい、家にも帰らない日々が続きだした。仕事の状況は全く変わらなかったが、現実を見つめることに疲れてしまったので、楽しいことに現実逃避してしまった。たまたま、家に帰ったら、奥さんはいなかった。そこには、家賃だの水道光熱費だの山のような請求書が置いてあった。(完)
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