壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #17 同族事務所における悲哀

 T弁護士は、登録2年目で、一番上のボスの他、パートナー2人、イソ弁2人の全部で5人の一般民事の事務所のイソ弁であった。最初の1年は、それなりに過ぎたが、2年目になる時に先輩のイソ弁(兄弁)が独立するのと入れ替わるようにして、ボスの息子が新人弁護士として入ってきた。
 T弁護士は、最近は就職状況が厳しいので、他に行くところが見つからず、父親の事務所に入ること自体は、仕方ないのかなと思っていたが、ボスが、自分の時とは違い、明らかに自分の跡取りが入ってきたので、自分が引退してからも、息子をよろしく的な挨拶状を出した。
 そこまでは、まぁ、親バカでしょうがないなぁで済むのかなと思っていたが、その後、明らかに仕事について、えこひいき的な扱いが目立つようになった。
 たとえば、新規の依頼の打ち合わせについて、小さい事件については、息子に予定を聞いて、もし息子が「今、忙しいんだけど。」と答えると、息子ではなく、自分を打ち合わせに入れ、息子には担当させなかった。
 T弁護士は、イソ弁として、「忙しいので入れません。」などとは当然言えないので、結局、自分が担当となってしまうことが多くなった。
 その一方で、ボスは、大きな事件または大事な顧客の事件については、息子の予定を最大限考慮して、息子を打ち合わせに入れた。
 その結果、明らかにT弁護士に細かい事件が増え、かつ、ボスの息子よりかなり忙しい状態になっていった。 他のパートナーも、ボスの息子ということで、彼に問題的な行動があっても、あまり強いことは言えないようで、事務員も、T弁護士が依頼した仕事が上がってこないので、どうなっているのか確認すると、「息子さんから、この仕事を急いでやってくれと言われているので・・・すみません。」と申し訳なさそうに言われる始末であった。
 本人もお坊ちゃん育ちだからか、自分が特別待遇を受けていることに気づかないか、気づいていても当然と思っているのか、全く意に介さない態度であった。(続)
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 その内、息子は、面倒くさくなると、自分の担当事件をT弁護士に押しつけるようになってきた。ただでさえ、忙しい上に、息子の面倒まで見なくてはいけなくなり、あまりに大変なので、そのことを、ボスに言うと、「息子は成り立てでよく分からないことがあるので、面倒を見てくれ。」と頼まれてしまい、却って、仕事が増えることとなってしまった。
 ある日、息子の担当する大事な顧客の事件で、重大なミスがあり、それが原因で、敗訴判決となった。息子は、自分の責任であるにもかかわらず、全面的にT弁護士が悪いと言い訳をし、ボスも一緒になって、T弁護士を責めた。T弁護士としては、全く関与していない事件で、怒られたために、「私は担当ではありません。」と反論すると、「面倒を見てくれと言っただろう。」とボスに烈火の如く怒られた。しかも、依頼者に対して、T弁護士が全面的に悪いなどと言い訳しているのを聞き、T弁護士としては、立つ瀬がなくなった。その上、ボスは、顧客対策として、T弁護士に対し、事務所を辞めて欲しい、とまで言い出した。ボスから、「無能な弁護士を置いておくと依頼者が納得しないから。」とまで言われ、流石に、T弁護士はかちんときて、薄ら笑いを浮かべて横で聞いていた息子を、殴ってしまった。ボスは、このことを警察沙汰にし、T弁護士は、暴力弁護士とのレッテルを貼られて、放逐された。 (完)
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