壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #18 悪魔の依頼者

 S弁護士は、登録3年目で、ボスと2人の事務所のイソ弁としてがんばっていた。
 S弁護士は、事務所の事件として、B氏の不動産関係の訴訟を行うことになった。B氏は、ボスの顧問先の紹介で、昔に、一回依頼を受けたことがあった。
 S弁護士は、ある程度の事件なら任されるようになっており、この事件もボスは、最初の方の打ち合わせに参加しただけで、その後は、ほとんどS弁護士のみで打ち合わせを行い、訴訟の期日もS弁護士のみが行った。
 訴訟自体は、簡単な事件とは言わないものの、比較的有利に進み、最終的には、1年半ほどで、B氏がある程度の損害賠償金を支払うものの、B氏に有利な形で和解となった。
 S弁護士は、B氏に非常に感謝され、大変良い気分になっていた。ところが、B氏が事務所に来るとの連絡があり、当初はS弁護士もその場に参加するつもりだったが、直前になって、S弁護士に外してくれるように、ボスから話があった。ボスに、「よくわからないんだけど、B氏が、2人だけで話したいということなんだよね。」と言われた。
 S弁護士も最初少し変に思ったものの、何かボスと折りいった話があるのであろうと、その時はあまり気にしなかった。
 S弁護士は、打ち合わせに参加するつもりだったので、特に他に用事もなく、自分の席で他の仕事をして、休憩しに事務所の外に出ようとした時に、ちょうど打ち合わせが終わったらしいB氏が帰るところに出くわした。(続)
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 S弁護士が、いつものように明るく挨拶すると、B氏は、「先日はありがとうございました。ちょっと急いでいるので、これで・・。」と、よそよそしく帰って行った。
 S弁護士は、その態度に不自然なものを感じたものの、この時も、あまり気にしなかった。
 その後、S弁護士は、ボスに呼ばれた。
 ボスから、「先日、B氏にこの前の訴訟の報酬を請求したのだが、今日は、その減額をして欲しいという話だったんだ。」と言われた。S弁護士は、それを聞いて「あぁ、そうだったのか。だから、私抜きでボスと2人で話がしたかったのかな。」と思った。
 しかし、ボスが続けて「その減額の理由というのは、君の仕事ぶりにずっと不満があり、そんな金額は支払えないと言うんだ。」と言ったので、S弁護士は驚愕した。
 ボスの話では、B氏は、S弁護士の本件の理解が足りずに、打ち合わせ等でも非常に苦労した、裁判の期日でも、S弁護士はミスが多く、裁判官に悪い印象を与え、相手方に利する結果となった、その結果、不利な和解を押し付けられることになった、というような、S弁護士からすれば、全く荒唐無稽な話をボスにしたようだった。
 憤然として、反論しようとするS弁護士をボスは制して、「本件に関しては、君からずっと報告は受けていたし、客観的に不利な和解をしたとも思えないから、私は、B氏の言うことを信用してはいない。B氏は、お金にシビアな人で、以前の依頼の時も、かなりささいなことでねぎられたので、今回もある程度それを見込んで高めに報酬を請求しておいたのだが、まさかこんなことまでしてくる人とは思っていなかった。ただ、B氏は君も知っているとおり、うちの重要な顧問先の紹介であり、あまりむげな扱いもできないので、この件は私に任せてくれないか。このことを君に伝えるかどうか迷ったのだが、こんなことがあるようでは、もし、B氏からまた何か依頼があったとしても私が直接せざるを得ず、その時にいきなり君を外すのも変だから、今、言っておくことにした。君には申し訳ないが、もし、B氏にここでまた会ったりしても、このことは知らない振りをして欲しい。」と言った。
 S弁護士は、釈然とはしないものの、その場は引き下がった。(続)
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 数ヶ月後、今度は、B氏がC氏を紹介してきた。ボスは、B氏ではないので、C氏の事件をS弁護士一人でやらせた。最終的に、有利な和解で解決したところ、B氏と同じように、C氏は、単独でボスと面談した。C氏が帰った後、ボスが、S弁護士を呼んで、「B氏と同じようなことをC氏も言って、報酬を減額された。」という話をした。「B氏に吹き込まれたのかもしれないけど、イソ弁だけに仕事をさせたと文句まで言われてしまったよ。」と半分怒っていた。
 S弁護士は、B氏にしろ、C氏にしろ、真面目に仕事をしても、報われないと思い、人間不信に陥ってしまった。他の人は違うと思いながら、この人ももしかしたら、という気持ちが拭えず、面談をしていても、不信感を露わにして話すようになってしまった。ボスからは、「もう少し、普通に話をしなさい。それでは、取調べだよ。」と言われても、直りそうもなかった。 (完)
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