壊れてしまった弁護士たち

若手弁護士に実際に起きた出来事を、個人を特定できないように相応のフィクションを交えながら紹介していきます。

カテゴリ: #20 事務員に笑われて

 Q弁護士は、ボス1人、姉弁1人の事務所に入所した。Q弁護士は、事務所に入って、いきなり問題に直面したが、それは事務員が、Q弁護士を馬鹿にすることだった。
 まず、事務長であるが、ボスの大学の数年後輩らしく、昔は司法試験受験生で、バイトで事務員になったらしいのであるが、そのまま事務所に正式な事務員としてずっと残って今年で30年近くという人であった。
 長年の経験から、裁判所関係の手続に関しては書記官なみに精通していて、ボスの信頼も厚かった。簡単な書面は、ボスではなく、その事務長がチェックし、ご丁寧に赤で訂正をして、Q弁護士に戻してきた。裁判書類に関しても、物件目録のチェック、戸籍謄本の確認など、司法修習中には、Q弁護士が殆ど勉強していないことに関し、大きな朱文字で直してきていた。その都度、「こんな書類を出したら、ボスが恥をかきますよ。」とニヤリと笑って、見下していた。しかも、Q弁護士のことをボスと一緒に、「Q君」と呼んでいた。
 Q弁護士としても、このことが嫌で嫌でたまらなかったが、自分の不勉強もあって、文句がつけられなかった。しかも、時々、事務長はボスにQ弁護士についての評価めいたことを告げているようであり、居心地が非常に悪かった。しかも、自分の不出来がボスにも伝わっていいると思うと、やりきれない気持ちであった。
当然、Q弁護士はその事務員に個人的な仕事は全く頼むことがなかった。
 もう1人は、Q弁護士より10歳ほど年上で15年目とのことであった。一言で言えば、とにかく仕事をしたがらないタイプであった。(続)
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 Q弁護士は、ある時、打ち合わせのために急いでコピーを頼んだところ、何もしていないにもかかわらず、忙しいふりをして、「先生、それくらい自分でやって下さい。」と戻されてしった。ボスも、仕事をしないことについて、特に叱責することもなく、Q弁護士には、給料を無駄に払っているとしか思えなかった。どうも、この事務員は、経理畑出身で、事務所の経理関係を一手に引き受けていることから、ボスとして、知られては困ることを把握されているようであった。そのこともあって、この事務員に、あまり強くは怒れないらしかった。しかも、数字には本当に強くて、破産事件や民事再生事件では、その事務員の能力がかなり発揮されているようであった。Q弁護士が、見よう見まねで、計算書を作ったところ、紙面が殆ど真っ赤になるほど、訂正されて戻ってきた。ここでも、Q弁護士は、自分の能力なさを痛感しつつ、やりきれない気持ちでいっぱいであった。
 いつの日か、この事務員を見下してやろうと思って、Q弁護士は、業務に励むのだが、現実には、訂正文字が増える一方で、日々、萎縮していく自分が悲しかった。こっそり、姉弁に相談してみたが、姉弁も、実は頭が上がらないとのことで、事務員に頼まず、全部自分で処理しているとのことであった。(続)
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 Q弁護士は、事務員と弁護士との違いを見いだそうと、日々、色々と考えてみたが、知識と言うことに関しては、知っているかいないかで、違いがないように思えてきた。他の部分は、というと、経験に関しても、事務員が上のような気がして、困ってしまった。
 Q弁護士は、まずは、手続面に精通しようと考え、書記官用の教材や裁判所規則などを、ひたすら勉強した。結果的に、事務長の朱文字は減ってきたが、このことばかりしていたので、他の部分が疎かになった。ある日、ボスから、「君の準備書面は、ずいぶん形式的だね。訴えるものが感じられないよ。」と言われてしまった。「法律家らしい文書にしてくれないかなあ。」とも言われてしまった。また、ある日、計算書を作成していると、「そんなことは事務員にやらせて、先に、こっちの内容証明の起案をしてよ。」とボスから催促されてしまった。事務員には、仕事を頼みにくいし、ボスからはせっつかれて、Q弁護士は、窮地に陥ってしまった。それを、事務員が横目で見て、笑っていた。 (完)
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